電車に乗る機会がない。
いや厳密に言うと、駅まで歩くのがめんどくさくて車移動しちゃう。
いやほんと言うと、電車に乗って出掛けるような用事が皆無。
そんな私もたまには電車に乗ることがある。
だが、私は乗り物に弱いタチだ。
コンディションによっては酔う。
だからみんながスマホ見るか、寝るかをして電車で過ごすこのご時世、私は音楽聴きながら人間観察に勤しんでいる。
日常で関わる人といったら、家族、ママ友…病院。
せまくて慌ただしい世界では、なかなか人を観察できない。
電車に乗るということは、年に一回か二回あるかないかの、合法的に人をじろじろ見れるチャンスなのである。
結婚して子供ができると仕方ないことなのかもしれないが、私は友達がむちゃくちゃ少ない。
こんなズボラの友達だ。私よりもさらに上級の破天荒な人達ばかりである。
会うのは3年に一回ぐらい。連絡とるのも日程合わせる時だけ。多分ほっといたら一生会わないかもしれない。
そんないい加減な友達の中の1人とは、年に数回海外アーティストのライブに行く。
しかしこれまたマジでライブに行くだけ。
ライブに10回行くうち1回ぐらいご飯付きって感じだ。
そんなマジのライブに行く為に、久しぶりに電車に乗ったある日。
家の近くの田舎を出て、都会に向かっていた。乗る人も都会チックな仕事人が多い。
いくつぐらいかな?こんな時間から仕事かな?デートか?ええな、ええなあ
なんてぶつぶつ思っていると、前に座った男性が目に入った。
今どき男性でスラックスにポロシャツ、通勤用っぽいリュックを抱えた方で、仕事だよな?と思わせる出立ち。
歳は私より若そう。結婚指輪もしてた。
その男性、私の向かいに座りスマホで何かをずーっと見てる。
すると突然顔のニキビをつぶし出した。
最初は「あ〜ニキビつぶしてんな〜」ぐらいだったが、
それがもうすごいぎゅうぎゅうつぶす。
よく見たら顔にニキビ跡が目立っていた。
「こうやっていっぱいつぶしてきたんだな〜」と思いつつも、
学生時代はニキビだらけだった私も気持ちは良くわかる。
つぶしたくなるよね!
そんなおセンチな気持ちを噛み締めながら見入る。
その間もずーーーっと彼はスマホの動画に集中しながら、力ずくでニキビをつぶし、血や膿を出している。
あぁ…もうやめて!!
私は知っているのよ!
そんな無理に押し出したら、内出血してニキビ自体が紫になっちゃうよ!!!
あぁ…。
ダメだ。もう見てられない。
私がこんなに見ているのにも関わらず、口を半開きにしながらニキビを必死につぶしてる。
見えているのは動画だけ。彼は今、動画とニキビの世界にいる。
私は冷静になった。
誰にでもある事だが、こんなアホずらでニキビをつぶしているのだ。
何か見てはいけない、プライベートな姿を見てるのではないかという気持ちになった。
パジャマ姿でゴロゴロしている人様の旦那様を見ているような。
私は今、
何か踏み込んではいけない一線を越えた。
いけない。もうやめよう。
何を見てるのか知らないが動画ばっかり見て、ニキビの血や膿を出して、その手をどこへやる!
彼を不潔に思ってしまう前にやめよう。
嫌いになってしまう前にやめよう。
その時ちょうど人が乗って来て彼の前に立った。
救われた。
しばらく目を閉じよう。寝よう。
そう思うものの、チラッと見る。乙女心。
だめだめだめ。見ちゃだめ。
気になる。
見えない。
意味不明な葛藤している間に電車は満員状態になった。
私はかなり先まで乗ることになるし…ああ…これで最後なのね。終わりです。
私はあなたの事をきっぱり忘れます。さよならニキビ男。
そして40分後降りる時がきた。
もうあなたはいないと思うけど、私も前に進みます。
これを降りたら今日の事はなかったことにしましょう。
いた。
いたよ。まだいた。まだ動画見てた。
はっ…!ニキビは!?
ニキビが!
…きれいにつぶされてる!!!!!!
なんてことなの。
プロなんだ…この人はニキビをつぶすプロなんだ。
その顔の跡は勲章なんだ!!!
どこにでもいろんなプロがいるんだな。
